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なぜレシピは「曖昧」なのか? マニュアルのプロによる解釈と提案

なぜレシピは「曖昧」なのか? マニュアルのプロによる解釈と提案

このコラムを書いた人

〇〇企画部 A.H

レシピの「少々」は、優しさでできている?

レシピで見かける「塩を少々」や「適量の油」という表現に困惑したことはありませんか?
料理初心者を悩ませるこれらの言葉は、一見不親切に思えるかもしれません。

しかし、もしレシピが「塩0.6グラム、腕を15度の角度で傾け、3秒かけて振りかける」と書かれていたら、料理を作る気になるでしょうか?
おそらく、材料を見る前にそっと本を閉じてしまうはずです。レシピが曖昧なのは、読み手に「これならできそう」と思わせるための、計算された「優しさ」なのです。

レシピの「少々」「適量」って、結局どのくらい?

レシピによく記載されている「少々」や「適量」などの曖昧な表現は、実際にはこのような目安になります。

  • 少々:
    親指と人差し指の「2本」でつまんだ量。重さにすると約0.6g(小さじ1/8程度)です。

  • ひとつまみ:
    親指・人差し指・中指の「3本」でつまんだ量。重さは約1g(小さじ1/5程度)です。

  • 適量:
    「ちょうど良い味(状態)になるまで、あなたの判断で調整してください」という意味。信頼のサインでもあります。

  • 適宜:
    「お好みで、入れても入れなくてもどちらでも良いですよ」という自由の提案です。

1. 比較:ハンバーグに見る「伝わりやすさ」と「正しさ」

レシピに曖昧な表現が使われるのは、調理器具の違いや素材の個体差、作る人の好みをあらかじめ加味しているからです。
あえて正確な量を定義せずに「幅」を持たせることで、製作者が伝えたいおいしさのポイントを、より柔軟に届けようとしているのです。

一方で、誰でも同じ味を再現できる「完全なレシピ」を作ろうとすると、どうしても情報量は多くなってしまいます。

では、この「伝わりやすさ」と「正しさ」のバランスをどう取るべきか。ハンバーグ(2人前)を作る工程を例に、AとBを比較してみましょう。

A. 「伝わりやすさ」を意識した一般的なレシピ

  1. 玉ねぎ(中1/2個)をみじん切りにし、少量の油で炒め、冷ます。

  2. パン粉大さじ4に牛乳大さじ2を混ぜて湿らせる。

  3. ボウルにひき肉250g、玉ねぎ、パン粉、卵1個、塩こしょう・ナツメグ各少々を入れ、粘りが出るまで混ぜる。

  4. 2等分して空気を抜き、小判形に。中央を軽くへこませる。

  5. フライパンで油を熱し、中火で両面に焼き色をつけたら、ふたをして弱火で7〜10分蒸し焼きにする。

B. 情報を詰め込んで「正しさ」を重要視したレシピ

  1. 玉ねぎの細胞壁を破壊し甘みを引き出すため、フライパンでサラダ油5mlを180℃に熱し、みじん切りにした玉ねぎを投入して、淡い褐色(L値50程度)になるまで加熱し、10℃以下まで冷却する。

  2. 乾燥パン粉の含水率を最適化するため、牛乳と2:1の重量比で混合し、5分間静置して組織を軟化させる。

  3. 精肉のタンパク質を溶出させるため、ガラス製のボウルに材料を投入後、手指の温度(約34℃)が伝わらないよう素早く、かつ120回/分の速度で攪拌を行う。

  4. 加熱時の収縮を考慮し、中心部の厚みを1.5cm、周辺部を2.0cmの小判形に成形。内部の空気を完全に排除し、破裂を防止する。

  5. 直径22cmのフライパン底に炎が収まる程度の火力(フライパンの表面温度140℃〜150℃)でハンバーグの中心温度が75℃以上に達するまで正確に計測し……

いかがでしょうか。Bのレシピは確かに詳細かつ正確ですが、これを読んで「今夜作ろう!」と思う人は少ないはずです。詳細すぎる指示は、読み手の「めんどくさい」という感情を誘発し、結果として最も重要な「火を通す」といった安全管理すら読み飛ばされるリスクを孕みます。

2. YAMAGATAが提案する「階層化」という選択

読み手の意欲を削がず、かつ正確に動いてもらうために、テクニカルライターは情報を「階層化」します。
先ほどの「情報を詰め込んで「正しさ」を重要視したレシピ」をテクニカルライティングの技術で整理すると、以下のような「3つの階層」に分けることができます。
この構造は、ISO/IEC 82079-1(取扱説明書の国際標準)でも推奨される設計で、世界中のマニュアル制作で採用されています。

  • 1階層目:直感(Task)
    パッと見て「何をすべきか」がわかる。 行動のスイッチを入れます。

  • 2階層目:実行(Steps)
    「どうやって?」の操作と「どのくらい?」を数値と基準で補足し、迷いを取り除きます。

  • 3階層目:納得(Notes)
    「なぜするのか?」「何に気をつけるか?」を説明。納得感を高め、応用力を支援します。

    ※人身事故や故障に直結する「警告・注意」は、手順の前に配置して安全を確保します。

実践例:情報の階層化でつくる「失敗しないハンバーグ」

1. 玉ねぎを炒めて冷ます【Task】
甘みを引き出し、生の辛味を取り除きます。
【Steps】
  • 玉ねぎ(中1/2個)をみじん切りにします。
  • 油少量でしんなりするまで中火で炒めます。 玉ねぎが透明になり、しんなりした状態になるまで。
  • 皿に移し、10℃以下まで冷まします。 触れて冷たく感じるレベル(冷蔵庫で約10分)です。
【Notes】 炒めた後は必ず皿に移し、しっかり冷ましてください。熱いまま肉に混ぜると、脂が溶け出してジューシーさが失われます。
2. パン粉を湿らせる【Task】
ふっくらとした食感の土台を作ります
【Steps】
  • パン粉(大さじ4)に牛乳(大さじ2)を加えます。
  • 全体を均一に混ぜ、湿らせます。 パン粉が牛乳を吸って、しっとりした状態になるまで。
【Notes】 パン粉全体を均一に湿らせることで、ハンバーグの仕上がりがふっくらします。
3. 肉を練る【Task】
ハンバーグがまとまりやすくなります。
【Steps】
  • ボウルにひき肉(250g)、手順1と2의 材料、卵(1個)、塩こしょう・ナツメグ(各少々)を入れます。
  • 粘りが出るまで手早く混ぜます。 肉の色が白っぽくなり、糸を引くような粘り気が出た状態になるまで。
【Notes】 手早く混ぜることで、手の熱が肉に伝わりにくくなり、脂が溶け出すのを防ぎます。
4. 成形して空気を抜く【Task】
加熱中の割れや肉汁の流出を防ぎます。
【Steps】
  • 肉を2等分します。
  • 両手でキャッチボールをするように、10回程度叩きつけて空気を抜きます。
  • 厚さ2cmの小判形に整えます。
  • 中央を軽く(約5mm)へこませます。 中央が周囲より少しくぼんだ状態です。
【Notes】 空気を抜かないと、加熱中に膨張して割れ、肉汁が流出してしまいます。中央をへこませるのは、加熱による膨らみを考慮した対策です。
5. 焼き・蒸し焼き【Task】
肉汁を閉じ込め、ジューシーに仕上げます。
警告アイコン 注意:中心までしっかり熱を入れるため、蒸し焼き時間(7〜10分)は必ず守ってください。 【Steps】
  • フライパンに油を引き、中火にします。
  • 成形したハンバーグを入れ、表面にこんがりとした焼き色がつくまで焼きます。
  • ハンバーグを裏返して、同様にこんがりとした焼き色がつくまで焼きます。
  • ふたをして弱火にし、7〜10分蒸し焼きにします。
  • 中央に竹串を刺して、火の通りを確認します。 竹串を刺したときに出る肉汁が透明であれば完成です。肉汁が濁っている場合は、さらに1〜2分加熱してください。
【Notes】 中火で表面をしっかり焼き固めてから、弱火で蒸し焼きにすることで、肉汁を逃がさず中まで均一に火が通ります。

なぜ、マニュアルには「情報の整理」が不可欠なのか?

  1. 「少々」をあえて残す戦略的意図
    塩こしょうを「0.6g」とガチガチに固定しないのは、意図的な「引き算」の結果です。レシピでは個体差に対応するための「余白」を残し、マニュアルではあえて詳細を絞ることで、失敗できない「重要」や「注意」に意識を向けさせるためです。

    この情報のさじ加減が心理的なハードルを下げ、行動を促進します。

  2. 必要な時に、必要な情報を
    「竹串の肉汁が透明ならOK」という判断基準(Steps)は、焼いている瞬間にだけ必要な情報です。 これをマニュアルの冒頭に書くのではなく、行動のタイミングに合わせて配置することで、読み手が情報過多にならないようにします。

  3. テクニカルライティングの「足し算」
    「中央をへこませる」といった指示は一見手間に見えますが、これが「割れ」や「生焼け」という事態を防ぐために不可欠な工程です。 弊社はこの補足(Notes)をセットにすることで、納得感のある情報を提供します。

3. YAMAGATAがデザインする「ちょうどいい塩梅」

レシピの「少々」という曖昧さは、ビジネスの現場にとっても他人事ではありません。私たちも日々「情報の出し方」には頭を悩ませているからです。

「正しすぎて読まれない」か、「曖昧すぎて事故が起きる」か。

その中間にある、読み手が一番心地よく、かつ安全に動ける「答え」を私たちはデザインします。
ただ情報を削るのではなく、現場の状況に合わせて「情報の整理」をお手伝いします。

  • 読み手への「やさしさ」をカタチにする
    誰が、どんな時に、何を知りたいのか。
    レシピの「少々」に込められた配慮のように、読者の状況をしっかり分析します。
    山のような情報の中から、現場で「本当に必要なもの」だけをパッと見つかる形に抜き出します。

  • 課題を解決する「引き出し」の多さ
    今回ご紹介した「階層化」は、私たちの手法のほんの一部です。
    情報のパーツ化や構造化など、長年の経験で培ったさまざまな技術を組み合わせて、貴社の製品やルールにぴったりの「マニュアルの型」を作り上げます。

  • 豊富な実績から導く「さじ加減」
    業界や製品によって、求められる「味付け」は違います。
    数多くの制作現場で積み上げてきた知見を活かし、その製品にとっての「ちょうどいい塩梅」を導き出します。複雑な情報を、現場が直感的に動けるマニュアルへと生まれ変わらせます。

創業以来120年にわたり、一貫して「伝える」という課題に向き合ってきたYAMAGATAは、貴社の情報資産を整理し、現場に最も響くちょうどいい塩梅(あんばい)をご提案します。 自社のマニュアルに「情報の整理」が必要だと感じたら、ぜひ一度私たちにご相談ください。

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今回ご紹介した「階層化」は、伝わらない原因を解決するのに有効な手段の一つです。
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