
AIを使っていて、「プロンプト集を試しても、なぜか期待通りにならない」「毎回、返ってきた文章をかなり直している」と感じることは少なくありません。こうした場面では、AIそのものの性能よりも、指示の出し方に原因がある場合があります。
特に見落とされやすいのが、質問文の中にある曖昧さです。AIは文脈をある程度補ってくれますが、人が当然のように共有している前提まで、常に正しく汲み取れるわけではありません。
そこで参考になるのが、マニュアル制作で重視される「情報を誤解なく伝える書き方」です。相手が人であってもAIであっても、指示が一意に解釈できるほど、出力は安定しやすくなります。

たとえば、60分の定例会議の議事録を、経営会議向けに短く要約したいとします。そのとき、次のように依頼すると、必要な情報が抜けやすくなります。
「この議事録、短くまとめて、重要なところ入れて」
一見、意図は伝わっているように見えます。ただ、ここでいう「短く」や「重要なところ」は、人によって解釈が変わる表現です。AIはその曖昧さを埋めようとして、頻出パターンに寄った総花的な要約を返しがちです。
結果として、会議の雰囲気は分かっても、経営判断に必要な論点や数値、期限が抜けたままになることがあります。
AIの回答がぼやけるとき、指示文には次のような傾向が見られます。
指示代名詞が多い
「これ」「あれ」「さっきの」は、会話の流れがあれば人間には通じます。
しかしAIにとっては、参照すべき対象が定まりにくく、解釈のぶれにつながります。
前提条件が足りない
誰向けなのか、何に使うのかが分からないと、トーンや粒度が合わなくなります。マニュアル制作では、読み手の職種・知識レベル・使用場面を想定してから書き始めます。AIへの指示でも同じ発想が使えます。「技術者向け」と「初心者向け」では、適切な用語・文体・粒度がまったく異なるからです。
基準が主観的
「いい感じに」「適切に」「分かりやすく」といった表現だけでは、判断軸が定まりません。
AIは、書き手が想定している判断基準を共有していないためです。
出力形式が決まっていない
箇条書きにするのか、表にするのか、文字数はどうするのか。ここが曖昧だと、後で整える手間が増えます。
つまり、AIに求める内容そのものよりも、「どういう条件で出してほしいか」を言語化できているかが重要です。
言い換えると、これは頭の中にある暗黙知を言語化する作業です。たとえば「要約して」という依頼ひとつとっても、自分が想定しているスタイルはケースによって異なります。マークダウン形式にするのか、5W1Hで整理するのか、キーポイントを箇条書きにするのか。プロンプト術を探す前に、まず「自分はどういうアウトプットを望んでいるか」を言語化できているかを確認するのが先決です。

同じ議事録の要約でも、条件を具体的にすると、AIはかなり動きやすくなります。
「添付の議事録を経営会議向けに要約してください。形式は『決定事項/意思決定が必要な点/リスク/次アクション(担当・期限)』とし、全体を400字以内でまとめ、数値と期限は残してください」
この依頼であれば、AIは「誰に向けた要約か」「何を残すべきか」「どの形式で出すか」を判断しやすくなります。その結果、抽象的な感想ではなく、意思決定に使いやすい形に近づきます。
特別なテクニックに見えるかもしれませんが、やっていることはシンプルです。曖昧だった条件を、解釈の余地が少ない形に置き換えているだけです。
こうした改善に役立つのが、マニュアル制作で培われてきた記述の考え方です。なかでも、AIへの指示文に応用しやすいのが次の3点です。
複数の依頼を一文に詰め込むと、どこを優先すべきかが曖昧になります。
適用前
新システムは多機能で便利ですが設定が複雑なので、初心者向けに分かりやすく設定手順を3ステップで解説して
適用後
新システムの設定手順を解説してください。初心者向けに、3ステップの箇条書きで記述してください
依頼を分けるだけで、AIは要件を整理して処理しやすくなります。
人同士なら通じる省略も、AIには負担になります。
適用前
さっきの案、もう少し具体的にして
適用後
先ほど提案された「SNSキャンペーン案」について、実施スケジュールを具体化してください
何について話しているのかを明示することで、出力のぶれを抑えやすくなります。
「短く」「見やすく」ではなく、可能な範囲で条件に置き換えることがポイントです。
適用前
資料をいい感じに短くまとめて
適用後
資料の要点を、300文字以内の箇条書きで要約してください
AIに任せる範囲と、守ってほしい条件を切り分けるイメージです。
より精度を高めたい場合、指示文に含める要素を意識的に整理する方法があります。マニュアル制作では書き始める前に「何を・誰に・どう伝えるか」を整理する情報設計のプロセスがありますが、AIへの指示も同じ発想が応用できます。
整理しておくと役立つ要素は、おおむね次のとおりです。
要素 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
役割(Role) | AIにどの立場で答えてほしいか | 「プロのライターとして」 |
背景(Background) | なぜこの依頼をするか、誰に向けたものか | 「経営会議の資料として使う」 |
指示(Instruction) | 具体的な作業内容 | 「要約する」「提案する」 |
制約条件(Conditions) | 文字数・件数・難易度など | 「300字以内」「5つ挙げる」 |
出力形式(Output format) | 希望するアウトプットの形式 | 「箇条書き」「表形式」 |
すべてを毎回盛り込む必要はありません。ただ、出力がぼやけると感じたとき、この表を手元に置いて「何が抜けているか」を確認するだけで、指示文の精度は上がりやすくなります。
AI活用の精度を上げたいとき、つい新しいプロンプト術を探したくなります。ただ、その前に確認したいのは、質問文自体が一意に解釈できるかどうかです。
AIへの指示を「知能へのお願い」ではなく、「操作条件の記述」と捉えると、見直すべき点が見えてきます。誰が読んでも意味がぶれにくい文章は、AIにとっても処理しやすい文章です。
AIの回答品質を安定させたい。社内で使うマニュアルや業務文書を、AIが参照しやすい形にしたい。そうした課題の背景には、情報の持ち方や書き方のばらつきが潜んでいることがあります。
技術文書や業務マニュアルの制作で培われてきた「情報を整える」視点は、AI活用の土台づくりにもつながります。
YAMAGATA株式会社は、マニュアル制作、印刷・製本、翻訳などを通じて培ってきた知見をもとに、情報設計やドキュメント整備の支援を行っています。AI活用を見据えた文書の見直しについても、お気軽にご相談ください。