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TAUS in Tokyo: AIの進化とローカリゼーション業界の未来

生成AIの台頭により翻訳業界が大きな変革期を迎える中、2024年4月16日から17日にかけて、業界の国際的なシンクタンクTAUS (Translation Automation User Society) が主催した「TAUS in Tokyo 2024」がテーマ「Change」のもと開催されました。業界内でAIへの関心が高まる中、様々なAIの導入アプローチや有識者によるトークセッションが行われました。このレポートでは、イベントの概要と共に、YAMAGATAが登壇したプリエディット(翻訳前の原文整理)を生成AIを使って試みる研究発表についてご紹介いたします。

TAUSとは

TAUS(Translation Automation User Society)は、翻訳とローカリゼーション業界の自動化と革新を推進する国際的なシンクタンクです。2005年に設立されたこの組織は、翻訳業界全体に機械翻訳(MT)の利用を促進し、革新的な技術の開発と適用をリードしてきました。

TAUS
https://www.taus.net/

ミッションと目的

TAUSの主なミッションは、翻訳データと知識の共有を通じて、言語サービスの質を向上させることです。この組織は、オープンイノベーションと協力を核としており、業界の障壁を取り除き、より効率的でアクセスしやすい翻訳技術の普及を目指しています。

活動と貢献

TAUSは、翻訳品質評価フレームワーク(DQF)、言語データリポジトリ、翻訳品質評価のためのツール、業界研究、教育プラットフォームなど、多くのイノベーションを業界に提供しています。また、TAUSは毎年、多くのイベントやワークショップを主催し、業界のリーダーたちが集まり、最新の技術やトレンドについて知識を共有し合う場を提供しています。

業界への影響

TAUSの活動は、翻訳業界のデジタル変革を加速し、多言語コンテンツの制作と管理に新たなアプローチをもたらしています。そのため、翻訳の質の向上、コストの削減、プロセスの効率化が実現しています。さらに、TAUSは言語データの標準化と共有を推進し、翻訳メモリと機械翻訳の出力品質を向上させることに重要な役割を果たしています。
TAUSの取り組みは、翻訳業界だけでなく、グローバルなビジネスコミュニケーションの質を向上させるために不可欠です。また、翻訳技術の発展を通じて、言語間の壁を低減し、世界中の情報のアクセスを促進しています。

TAUS in Tokyo

イベントの背景と重要性

「TAUS in Tokyo」は翻訳とローカリゼーション業界の専門家が集う国際的な会議で、アジア市場の業界リーダーたちと顔を合わせる交流の場を提供しています。新型コロナウイルスのパンデミックによって数年間開催が中断されていましたが、パンデミックが落ち着いた今年、久しぶりに東京で開催されました。

TAUS in Tokyo 2024/4/16-17 東京
https://www.taus.net/events/taus-in-tokyo

参加者と対象

すべて英語で行われるこのイベントには、翻訳とローカリゼーション業界の専門家約50名が世界各地から参加し、業界の未来を形作るための知識と経験を共有しました。参加者は技術革新を推進し、業界内での協力と連携を深めることを目指しています。

2024年イベントの主なテーマと目的

「TAUS in Tokyo 2024」のテーマは「Change」でした。ChatGPTをはじめとする生成AIの登場以降、翻訳業界を含む様々な業界への影響が顕著になっています。AI革命によって言語技術が急速に進化し、翻訳業界は前例のない新たな機会と直面しています。
今回のイベントでは、AIが今後どのように翻訳業界の景観を変えていくかを探ることを目的としていました。業界専門家が直接交流し、AI技術の進化がもたらす変化を理解し、これにどう適応していくかについての洞察を共有する場となりました。

イベントプログラム

Day1 AM:品質評価ワークショップ

この半日のワークショップは、機械翻訳品質評価(MTQE)に特化し、その重要性と実用的な応用を掘り下げました。参加者はMTQEがどのように翻訳の品質を保証し、翻訳後の編集コストを削減するかについて理解を深める機会を得ました。


主要なセッション概要:

Evolution of Quality Estimation
MTQEの研究に焦点を当て、使用されるモデルやスコアリング技術についての説明が行われました。


GEMBA : using Large Language Models to evaluate translation quality
最新の大規模言語モデル(LLM)を使用して翻訳品質を評価する方法が解説されました。


Day1 PM/Day2:トレンドと変化に関するフォーラム

1日半にわたるフォーラムセッションでは、AIの導入が翻訳とローカリゼーション業界にもたらす変化と、それに伴う新たな課題について深掘りされました。業界の専門家たちは、技術の進化が業務プロセス、スキルセット、そして業界全体の構造にどのような影響を与えているかを探求しました。

Day 1 PM: Farewell MT, Welcome AI


主要なセッション概要 :

Farewell MT. Welcome AI
生成AIが翻訳業界に新たな役割と可能性をもたらし、従来のMTが資金を失いつつある状況を解説しました。


AI, MT, and the Human-in-the-Loop
AIの導入が翻訳業界の人材にどのような影響を与えているか、将来の職業のあり方を探りました。


Speech-to-speech translation: Born in Japan and evolved throughout the planet
日本発のスピーチ・トゥ・スピーチ翻訳技術の進化と、ビジネスシーンでの同時通訳への応用を紹介しました。


Building and sharing translation resources for local governments
地方自治体向けの翻訳リソース開発と、政府、産業界、学界間の効果的な協力方法を議論しました。


Day 2: AI Localization Business


主要なセッション概要 :

Enterprise Perspective
企業が全てを翻訳するためにMT First戦略をどのように採用しているか、その過程で直面する業界の変化について討議しました。


Provider Perspective
生成AI革命がローカリゼーション業界に与える影響と、既存プレイヤーの対応戦略を探りました。


Quality Dilemma
AIローカリゼーションビジネスにおける品質管理の問題点と解決策をパネルディスカッションを通じて深掘りしました。


Speech Technology
多言語スピーチ技術と最新のAI開発、その影響と可能性についての説明が行われました。


 

YAMAGATAがセッションに登壇

DAY2の「AI Localization Business – Provider Perspective」に弊社のS1企画部で、北海道大学と生成AIを使った共同研究開発を行っている永田が、共同研究の成果発表と翻訳ベンダーの将来についてのトークセッションに参加しました。

北海道大学と「次世代マニュアル」の共同研究の契約を締結し、研究を開始
https://yamagata-corp.jp/news/879/

生成AIによるプリエディットの研究発表

研究成果のプレゼンテーションでは、新しいアプローチとして、機械翻訳(MT)の精度を向上させるために原文を生成AIでプリエディットする方法を紹介しました。通常、機械翻訳後に翻訳者が翻訳結果を修正するポストエディットが行われますが、この新しい手法では、翻訳前にテキストをより翻訳しやすい形に整えるプリエディット(翻訳前の原文整理)を生成AIで実施します。このプロセスには、情報を明確かつ効率的に伝えるためのテクニカルライティングのスキルが非常に適していると考えられています。
今回の研究では、60 個程度ある日本語のテクニカルライティングにおけるライティングルールから作成者の意図と異なる解釈を読者がしないための、5つのライティングルールに着目し、テストを実施しました。

着目したライティングルール

一文一義
二重否定を使用しない
読点の基準
主述の正しい対応
修飾語の位置

データセットの作成

1. ライターによる悪文の修正と、修正した文章をペアで収集
2. AIとテクニカルライターによるスタイルガイドに基づく分類とタグ付け

AIによる文章の判定/修正

入力文章がライティングルールに準拠するかを判定/修正
使用する判定プロンプトは4種類

• Zero-Shot プロンプト
• Zero-Shot & Chain-of-Thought プロンプト
• Few-Shot プロンプト
• Few-Shot & Chain-of-Thought プロンプト

TAUS2024

判定モジュールとプロンプトごとの正解率

変換された文章をルール/可読性で評価

AIによって生成された文章の可読性をライティングルール、読みやすさの2点で評価

ライティングルールに準拠するを25名のテクニカルライターが確認
修正前後の文章のどちらが内容を理解しやすいかをリッカート尺度(5段階評価法)により確認

資料ダウンロード

登壇時のプレゼンテーション資料は下記よりダウンロードいただけます。(日本語訳付き)

ダウンロード

 

トークセッション

 

左からYoko Chiba氏 (Crestec) / Manuel Herranz氏 (Pangeanic) / Beibei Shimada-He氏 (RWS) / Isao Nagata (Yamagata)

 

トークセッションでは、翻訳業界の4名の専門家により、AIのリスク、取り組むべきタスク、その他多岐にわたるテーマについて議論されました。下記はトークセッションで議論された内容の一例です。


“LLMにより近い将来、オリジナルコンテンツの作者や開発者が自分で翻訳できるようになると考えられます。AIがオリジナルコンテンツとともに高品質の翻訳アウトプットを作成するようになった場合、どのような課題や将来のトレンドが予想されますか?また、サービスプロバイダーとしてどのような準備が必要でしょうか?”


“プライバシー重視のAIソリューションの将来像をどのように描いていますか?データプライバシーと倫理的配慮の重要性が増していることを考えると、AI技術を活用しながらプライバシーを確保するための会社の長期的ビジョンについて教えてください。具体的には、スケーラビリティと個人のプライバシー維持のバランスを取るために、どのような計画を立てる必要がありますか?”


 

翻訳業界の未来

今回の「TAUS in Tokyo」イベントは、AIとローカリゼーション技術が翻訳業界にもたらしている変化を浮き彫りにしました。この変革に適応し、将来の機会を最大限に活用するためには、継続的な学びと技術革新への取り組みが不可欠です。翻訳業界のプロフェッショナルとして、我々は定期的に最新のトレンドを追い続け、新しいテクノロジーを積極的に業務に取り入れる必要があります。
YAMAGATAは、革新的な翻訳ソリューションの開発と提供を通じて業界の発展に貢献し続けることを目指しています。私たちの最新の取り組みや研究成果に関する情報は、ウェブサイトを通じて随時更新していますので、ぜひご注目ください。

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